ROIC(投下資本利益率、Return on Invested Capital)とは、税引後営業利益を投下資本で割ることで求められる指標です。
この指標により、事業活動のために投じた資金(投下資本)を使って、企業がどれだけ効率的に利益に結びつけているかを知ることができます。
ROICを簡潔に言い換えると、企業にとっての効率的に収益を稼いでいることを表します。企業が収益を生み出すための投下資本がどれだけ効率的なのかを判断する際に使いましょう。
投下資本を見ると、有利子負債と株主資本のみということになります。バランスシートには存在した買掛金や未払金などの無利子負債というものはありません。
無利子負債というのは、その名の通り、利子は掛かりません。無利子負債の債権者は、利子はとらないかわりに、原材料や部品の価格に利子相当分を転嫁するはずです。
企業からすれば、そのコストは、売上原価の中に含まれていることから、すでに支払っていると考えるのです。
次に、投下資本は正味運転資金に固定資産・投資その他の合計と定義されます。
運転資本というのは、「売上債権+在庫-支払債務」です。
簡潔に伝える場合は、「流動資産-流動負債」と定義される場合もあります。
投下資本というのは、調達サイドでいえば有利子負債(デット)と株主資本(エクイティー)で、運用サイドでいえば、運転資本と有形固定資産と無形固定資産・投資ということになるわけです。
つまり、有利子負債と株主資本という形でお金を調達し、それが、運転資本と有形固定資産と無形固定資産・投資に形を変え、1年間で税引き後の営業利益を生み出すということになるわけです。
税引後営業利益を投下資本で割ったものがROIC(投下資本利益率)となります。
一般的に企業経営者は、営業利益というアウトプットしか見ていないことが多いものです。
しかしながら、営業利益を獲得するのに、どれだけ資本を投下しているのかということにも目を向ける必要があります。
営業利益を2割増やすために、投下資本を5倍にするということは、必ずしも褒められた状態ではないといえます。投下資本の増加分以上に営業利益の増加につなげていくことが大事です。
かと言って、ROICを大きくするために、ただ投下資本を減らせば良いということではありません。
営業利益をそのままに投下資本を減らすことができれば、ROICが上がるというのは計算上としては正しいです。しかし、これはビジネスを計算的にしかとらえていないということができます。本来必要な投下資本を減らすと、短期的にはROICが増加するかもしれません。
しかし、時間差で営業利益が減っていく、つまりROICが低下するということにも注意する必要があります。
例えば、戦略コストである研究開発、広告宣伝、教育、あるいは採用、こういった投下資本(=将来への成長投資)を減らしていくと、将来の営業利益に影響を及ぼします。
したがって、経営者は、ただ単にコストをカットしていくということではなく、きっちり営業利益につながるような事業投資をしていくということが求められるわけです。
お金の流れを見ると、有利子負債や株主資本という形で資金を調達し、正味運転資本、有形固定資産、無形固定資産・投資という形で、ぐるぐると運用され、税引後営業利益が生み出されるわけです。
資金調達にも当然のことながら、コストが掛かります。負債コスト、株主資本コストといいます。これを加重平均したものをWACCといいます。
企業経営者に求められているのは、調達コストより運用利回りが大きくすること、すなわちWACC以上のROICを上げるということです。
ROICの上昇を目指すのも必要ですが、WACCを下げていくということも経営者の重要な仕事ともいうことができます。
経営の重要指標として投下資本利益率(ROIC)を活用する企業が増えている。負債を含む投下資本全体の稼ぐ力を示し、事業ごとの収益性の分析にも役立つ。投資家の関心は企業以上だ。ROIC活用の最新事情を見ていきましょう。
日本企業は、株主と企業の関係について有識者が14年にまとめた「伊藤レポート」を受け、株主重視の経営へとかじを切った。そこでは自己資本利益率(ROE)8%が求められたが、企業はそれを達成し、新たな経営指標に目を向け始めた。それがROICだ。
ROICは、ROEだけでは見えにくい部分を分析できる。
株主資本や負債を使った投資でどのくらい利益を上げたか測るのがROIC。一方のROEは株主資本のみに対する利益率だ。
極端に言えば多額の借金で大規模投資をして売上高を伸ばし、利益を上げればROEは改善する。
だが、1兆円投資の結果が毎年10億円の利益にしかならないなら、投資効率は大きく劣る。ROEとROICの差が大きいとして話題に上るのが、ソフトバンクグループ(9984)だ。
ROEが20%を超す半面、ROICは5%台にとどまる。
広がりつつあるROICだが、企業と投資家の間の温度差はある。生命保険協会が例年実施している企業と投資家向けのアンケートでは、ROICを重視する投資家が全体の4割超に達するのに対し、企業で実際に開示しているのは4%程度。
投資家が企業に期待するリターンは、投下した資本コストを上回ってなければならない。
ROICと資本コストの差としての付加価値がなければ、投資妙味が薄れる。このため投資家も企業にROICの開示を求めているわけだ
こうした動きを反映して東証なども動き始めた。6月に改定されたコーポレートガバナンス・コードで、資本コストを把握することを求める。
資本コストがわかれば、目指すべきROICの水準も決まってくる。
利益の額ではなく、資本コストに見合った付加価値経営へ。ROICの重要性が一段と高まっているといえそうだ。
ROICの計算式は、税引き後の営業利益を自己資本と、銀行からの借り入れなどの有利子負債の合計額で割って算出する方法が一般的だ。
一方、似たような指標にROEがある。ROEは負債を除いた自己資本だけを使ってどれだけ稼いだかを示し、財務レバレッジ(負債の利用効率)の影響を大きく受ける。
※注意点
企業経営者は頑張って利益を向上させなくても負債を増やしたり、自社株買いや増配で自己資本を減らしたりすることでROEが高められるということ
ROICは財務レバレッジに影響されないため、企業の本当の競争力や稼ぐ力を判断するのに適している。
ROICは企業が部門ごとに投じた資本で得た利益を示せるため、投資効率や貸借対照表に対する意識が高まりやすく、不採算事業から撤退しやすくなるといった効果が期待できる。
ROICには、社債利回りなどの資本コストと比較する利用方法もある。このときの資本コストは、有利子負債と自己資本のコストを加重平均して求める。
ROICが資本コストより高いと、資本コスト以上にリターンを生み出していることになる。
2つを比べながら、企業が適切に価値を創出しているのか判断することが大切だ。
投下資本利益率(ROIC)は投資判断をする上で有効活用できる指標の1つだ。有利子負債や自己資本を元手にどれだけ稼いだかを示しているため、「上手に稼ぐ」企業かどうかが分かる。
投資対象となる企業の自己資本利益率(ROE)とROICに着目している。単年度ではなく、過去の推移をみて、どこの事業部門に注力しているのか、あるいは設備投資に対する考え方はどうかなどを読み取る。
もちろん、指標だけをみて投資判断はしない。
企業との対話を通じて将来の事業計画やROICを高めるためにどういった行動を起こしているのかといった点を見極めている。
ROICは企業の稼ぐ力を素直に示す指標だ。企業を同業他社と比べるときにも便利となる。もっとも、ROICが高い企業はバリュエーション(投資評価)も高くなりがちだ。そのため、事業の競争優位性などを考慮する必要がある。
海外では企業によるROICの活用がかなり浸透している。日本は追いつこうとしている段階だ。
コーポレートガバナンス改革を背景に資本コストを意識した経営が進んでおり、ROICの導入も自然と広まっていく。
今後はROICを導入している企業とそうでない企業の間で経営力の差が出てくるだろう。
コーポレートガバナンス改革を推進するための「伊藤レポート」が2014年に発表されて以来、自己資本利益率(ROE)を高める動きは広がってきた。
しかし、財務レバレッジを調整することでROEを上げることだけが目的になっている企業も散見される。
自社株買いも短期的には良いことだが、そればかりでは持続できない。
大事なのは企業価値を高めることであって、資本コストを意識するROICが今後より重要になってくる。
ROICを分析する場合に注意することはいくつかある。まずベンチャー企業や資産の少ない企業にとってはそれほど重要ではない。
資産の多い「重厚長大産業」の大企業が、事業資産をスリム化しているかどうかを定点観測で見る指標ということだ。
また、ROICを追い求めすぎると、投資を抑制することによって目標を達成する動きも出かねない。
本来は売上高を高めることが重要なので、ROICと生み出すキャッシュフローのバランスを見る必要がある。
ROICには財務レバレッジが含まれていないので、純粋に企業の稼ぐ力を反映した経営指標となります。
また、営業利益率などの売上高対比の指標には「投資額」という概念がないので投資効率を測ることができません。
ROICであれば投資に対するリターンを測定することができるので、キャッシュフローや企業価値に直結した経営指標であると言えます。